からっ風SS 2024年版
今年は今までの集大成ということで、やっと壊れにくい機構になり試合できるようになってきました。
来年からルールの大幅改定ということで、今の構成は今年で最後かもしれません。
※CADデータは一部未完成だったり、写真と微妙に違うところもあります
◆コンセプト
いつも通り、長いアームでスタートダッシュを決めれば
・相手が大型 → 倒立スタートが終わる前に攻撃できる
・相手が小型 → リーチ差で有利
となり、強いでしょ。という発想で作っています。
(最近は大型機もスタートが早くなって有利を取りにくいですが)
スタート姿勢から大きく展開するのが一番の特徴です。
戦闘姿勢 スタート姿勢
基本的な構造や技術要素としては
・アーム:ロングロッド2本(スライダリンク)
+カウンタ稼働機構(能動サスペンション)※アームの補助機構
・脚: うしとら脚12脚(スライダリンク)
後足:オムニホイール 前足:ウレタン
・その他:
横展開機構
リンク式サスペンション
サーボ制御、姿勢制御補助、スタート補助(マイコン)
となっています。
リンクサスやロッドは第12回大会で優勝した「舞姫」の影響を受けています。
以前ロボコンマガジンで特集されていました。
◆メインアームのリンク
詳細は企画提案書参照。
書き方は2016年の記事参照です。→ スライダリンクの設計方法
数年ぶりにリンクを見直し、アームの振り角を小さくしました。
このリンクの特徴の一つに、アームを振り上げた後、リンクの早送りで戻せるという特徴があります。アームを振り上げた後のスキを小さくできるのがメリットです。
ただ、この振り上げ→早送りの反転動作があまりにも早いため、本体が浮き上がるレベルの衝撃が入ることが問題になっていました。
特にアームギヤボックスごと上下に動かす可変機構へ衝撃が入るため、ここの強化と衝撃の低減で数年間苦労していました。
ショックアブソーバーをつけたり、角加速度制御を入れたりしましたが、なかなかうまくいかず。
最終的には上記の振り角修正と角加速度制御で反転時の衝撃を減らし、自作ギヤボックスを強化して壊れないようにしました。
<アームリンクの問題点>
上記の反転動作の衝撃が大きいことに加え
水平付近が減速リンク、垂直付近が倍速リンクになっているため、
水平付近しか大きなトルクが出ないというのがデメリットになります。
あとリンク比の設計が非常に面倒でした。
◆アームギヤボックス
ギヤで190まで減速し、スライダリンクでさらに2倍(水平付近)にしています
モータ: RS380 3個
1段目:
小歯車: m0.5 歯数14(RC用モータピニオン)
大歯車: m0.5 歯数58(教育歯車)
2段目: KUギヤボックス 1/24 ※ツカサ電工製ギヤードモータの一部
3段目:
小歯車: m2.0 歯数12(アルミで自作)
大歯車: m2.0 歯数23(アルミで自作)
4段目: スライダリンク
KUは遊星ギヤボックスで、非常に頑丈です。→過去の作例
外側のケースを外してギヤだけ使用することで、フレームもコンパクトになります
こんな感じの部品をナイロン焼結の3Dプリンタで作って、うち歯車をはめ込んでいます。
ギヤ比はいろいろありますが、ギヤ比に応じて中の遊星の段数が違うのが注意事項で、
今回のように無茶な使い方をする場合は2段のギヤ比(1/36まで)を使用するのがおすすめです。
また、遊星は出力軸が片持ちになると非常に弱いため、出力軸の端もベアリングなどで支持したほうが良いです。
からっ風SSでは、歯車ごとベアリングに入れることで、省スペース化と並行ピンの抜け止めをしています。
<ギヤボックスの問題点>
KUのピニオンをモータから外してシャフトに再圧入する必要があるため、圧入がちょっと緩め。今まで数年間壊れなかったもの先日ピニオンが滑って破損。
ピニオンの圧入は接着等したほうがよさそうです。
◆カウンタアーム稼働機構
アームのギヤボックスごと上下に稼働する機構です。
・カウンタアームを上下に稼働(カウンタを接地させる、丘から逃げるなど)
・転倒復帰時にアームの可動範囲を補助(高減速型のスライダリンクなのであまり上がらない)
・サスペンション的な動作で走行中の衝撃を緩和(は実装できませんでした)
サーボモータを使ってはサーボが壊れ、サーボセイバーを追加したらサーボセイバーが壊れ、ギヤドモータを使っては周辺部品が壊れるなどなど散々失敗してきましたが、今回は自作ギヤボックスで故障しませんでした。
強度UPと小型化はKHKのロボット用歯車にあるLS0.5のボスに歯車を切る方法で、小型化&高強度化できたのが大きいです。
↓こんな感じ。治具の固定が甘く、歯が大きくなってしまったミスもありますが、それは次回以降の対策で。
◆カウンタアーム展開機構
脚ユニットが左右に展開するのに合わせ、カウンタアームも左右に展開します。
ポリカの弾性でスタート時は内側に畳んでいて、戦闘時はまっすぐになります。
昨年まではスタート後も、内側に曲がる力に対してはポリカの弾性のみで支持していましたが、
攻撃時にグネって曲がって横転することが何度か・・・。
そこで、今年は展開後にロックする機構を追加しました。
画像の半透明な赤部品がポリカで、変形させてスタート姿勢を取ります。
スタート後はポリカ横の赤い部品が外側に動かないようにロックされます。
スタート時 戦闘時
◆横回転用カウンタアーム
横展開+ツインロッドと横回転アームとの相性が非常に悪く、試合するとほぼ負け確定だったため「横回転のカウンタより長いカウンタがあれば負けない」をコンセプトにカウンタを付けました。
この写真の右側に伸びている棒がそれです。
メインロットが絡め取られたときに、一定以上回らないようにする機構です。
※横回転の回転方向的に、画像の左側に着けることが多い
あまり試す機会がなかったので、効果の確認はできませんでした。
横回転のアームに引っかからないよう丸棒にしたほうがいいなどアドバイスをもらったので、
次回は何かしら修正する予定です。
アームの展開機構は気に入っていて、指定の位置にアームが来るとバネの力でスライドし、ピンと溝が噛み合うようになっています。
スタート時
スタート後
◆脚
脚機構はいつものベアカム+うしとら脚です。
数年前から使いまわしています。
主な特徴
・120度の円弧運動スライダ(うしとら脚)
・ベアカム
・クランク半径10mm
・足先半径60mm
<脚リンク>
ベアカム+スライダの構造です。
ベアカムはΦ2のピン3本で位置決め+中央のM3ねじで抜け止めとがたつき防止です。
<ギヤ比>
だいたい42くらい減速しています。
モータ: RS380 左右各1個
1段目:
小歯車: m0.5 歯数10 (KHK製ピニオン)
大歯車: m0.5 歯数60 (KHK製LS0.5)
2段目:
小歯車: m1.0 歯数9 転位+0.45 (KHK製LS0.5のボスから削り出し)
大歯車: m1.0 歯数30 転位-0.5 (アルミで自作)
3段目(タイミングプーリーS5M):
小歯車: S5M 歯数11(POMで自作)
大歯車: S5M 歯数23(POMで自作)
4段目: スライダリンク
◆オムニ足
後ろ足はオムニにしています。
これにより、加速をある程度維持しつつも、旋回性能を高められます。
旋回時の脚の滑りが小さいので、モータの発熱も小さくなります。
構造ははウレタンワッシャー(内径2、外径6)をΦ2ステンレスピンに通し、その両サイドをPOMワッシャーで挟んでいます。
ウレタンを使用する理由は機械的強度と摩擦係数が高いためです。
メリットは
・旋回性能が高い
・モータの発熱が小さくなる(モータの数を減らせる)
デメリットは
・押し合いに弱い
・操作が難しい(旋回性能が高すぎる)
・丘に足を取られて進行方向が曲がりやすい
・普通の足裏よりはグリップが低い
・機構が複雑で、組み立てに時間がかかる
・ウレタンワッシャーが高価
旋回性能が高すぎるところは制御で修正しようとしていますがなかなかうまくいかず
(その前に人が慣れてきた)
◆ウレタン足裏
ウレタンゴムの注型で足裏を作っています。グリップが高いのでお勧め
今年はタケフレックスBRUSHを使用しました。
柔らかいけど千切れにくく、グリップも高いため足裏に向いています。
硬化時に気泡が抜けにくいのが難点で、人力脱泡機だと辛く、電動の真空ポンプを購入しました。
色は肌色みたいな感じで使いにくかったので染色していますが、推奨品が品薄だったため、他社のウレタン用顔料を買って使いました。
足裏の芯材はポリカの切削品と、3DプリンタのPA11(MJF)でテストしました。
タケフレックスBRUSHは若干剥げやすいらしく、ポリカはしばらく使っていると平坦な面が剥げてきました。
PA11(MJF)はポリカと同設計だと折れてしまったものの、補強してからは良好です。ナイロン焼結で表面が荒いため接着性が高いのが利点です。
PA11(MJF)のほうが楽なものの、コストを考えるとポリカで接着性を高める工夫をしたほうがよさそうです。
<材料探しの経緯>
一時期シリコンシーラントが流行っていましたが、シリコンシーラントで足裏を作ると走行練習した家の床が滑りやすくなる(気がする)ため、より強度・摩擦係数の高いウレタンにしました。
例:シリコンシーラントの足裏、ウレタンゴムの足裏
その後、2019年から放置していたウレタンゴム脚のポリカ部品が割れた為、2023年に再度購入しようとしたところ以前のウレタンゴムは入手できず。
材料探しが始まりました。
選定基準は↓
・シリコーンゴムは種類があるものの、個人入手できる範囲では低強度なものが物が多く、選定が難しいのが難点。選定する際は硬化前の粘度が低く、硬化時間の長い物のほうが、綺麗に成型しやすいです。
・ウレタンゴムは少量販売しているメーカーが少なく、見つけた範囲では竹林化学工業(株)様のみ。
2023年から3種類の材料を試してみて、タケフレックスBRUSHに落ち着きました。
(より大きいロボットに使うにはタケシールK2Kがよさそう。)
[2023年に調査]
・フレンズシリコンⅡ ・・・ シリコーンゴム。硬化前の粘度が比較的低く、硬化後は柔らかく強度そこそこな良い材料でしたが、2024年に買おうとしたら廃品種に。
・タケシールK2K ・・・ ウレタンゴム。足裏としてはちょっと硬めですが、強度はあり良い感じ。硬いので摩擦は低め。ウレタンなのでそこそこ高価。
[2024年に調査]
・タケフレックスBRUSH・・・ウレタンゴム。柔らかく強度があり、摩擦も高い。気泡が入りやすい。ウレタンなのでそこそこ高価。
色々試した脚です↓
上から
・ウレタン切削+PCフレーム
・シリコンシーラント+PCフレーム
・フレンズシリコンⅡ+PA11(MJF)フレーム
・タケシールK2K(着色)+PCフレーム
・タケフレックスBRUSH(着色)+PA11(MJF)フレーム
◆横展開機構+リンクサス
横幅を広げる機構と、リンク式サスペンションを一体化しています。
この構造のメリットは倒立スタートしないのでスタートが安定すること、丘を踏んでも常に4脚が接地することです。
<胴体側>
脚ユニットの根本が左右にスライドします。
バネでテンションを貼っていて、スタート時はアームの一部に引っ掛けています。
<リンクサス>
パンタグラフリンクの中央を固定すると、両端が点対称に動く特性を利用しています。
展開時:左右同じ幅になるよう動きます
戦闘時:左右の脚ユニットが反転する方向に動きます
最近主流の4独サスと比較すると、リンクサスの動作感は
・平地ではリンクが動かないためサス硬め
・丘で低速な場合は柔らかめ
・丘で高速に走行していると固め(バネ下質量が大きい&左右同時に丘に乗るとサスが機能しない)
となります。
特に左右の脚が同時に丘に乗るとリンクサスは機能しないため、良く跳ねていました。
これを防ぐために、前足には簡単な板バネサスペンションを入れています。
跳ねるエネルギーを吸収するだけでよいのでかなり固めに設定しています。
◆制御
<全体図>
大きく分けて下記の4モードに分けて制御しています。
特徴的なのはどのモードからも安全モードに入れることで、
試合中に予想外の動きや、アームが絡まったときに非常停止として利用しています。
特にアームの角度制御を行っている場合、絡まるとモータが焼ける可能性があるため重要な機能です。
・電源投入時の初期設定
・スタート時の動作(スタート姿勢の準備&スタート時の展開動作)
・通常の動作
・安全モード(動作無し&アームのトルクOFF)
<アームの角度制御>
アームの角度制御は、ざっくりと微分先行PIDと角度・速度のカスケード制御を合わせたPID制御です。
ただし、アームの操作レスポンスを優先するため、下記の場合でESCの出力を最大にしています。
・アームが水平付近
・プロポの入力角度が最大値
使用した制御方式を簡単に説明します。
詳細はより正確な資料を調べてみてください。
微分先行PID:
通常のPIDで目標値(プロポの操作)の急な変動があると微分項は大きい値になるため、
プロポの信号にノイズが乗るとアームがガチャガチャ動くことになります。
そのため、Dゲインを上げにくい場合があります。
微分先行PIDはDゲインのFBに操作量の微分を用いず、速度のみで計算する方法です。
入力に急な変化があった場合でも、比較的滑らかに動作します。
計算は主に下記の計算式になります。
目標値の差分を用いないため、入力に多少ノイズが乗っても動きが滑らかになります。
P操作量 = Pゲイン × (目標角度 - 現在角度)
I操作量 = Iゲイン × (目標角度 - 現在角度)+ I操作量(1つ前)
D操作量 = Dゲイン × (現在角度 - 現在角度(1つ前))
※目標角度の情報が含まれない
操作量 = P操作量 + I操作量 + D操作量
カスケード制御
角度と速度を同時に制御する方法です。
角度PIDで速度の指令値を計算し、それに合うように速度PIDでモータへの入力(電圧)を計算します。
大まかな流れは下記です。
プロポの信号(角度)→ 角度PID → 速度PID → ESCの指令値 → モータ(アーム)
← 角度センサFB
ここで、角度PIDの計算結果(速度指令値)の最大値に制限を加えることで、
疑似的な角加速度制御を行っています。
たとえば、角度リミットの270度に近づくにつれてゆっくり減速したい場合は、
速度指令値の最大値を徐々に下げるようにしています。
<アームの水平制御>
能動サスペンションとして、アーム根元の可動軸を使ってアームが水平になるよう制御しています。
丘を乗り越えた時などに、下の画像の黄緑のフレームが一定の角度になる角度制御をしています。
ただ、今のところ反応が遅いため、面白さ以上の効果は無く・・・といった感じです。
MPU-6050(GY-521モジュール)のDMPが遅いのか、制御がうまくできていないのか。
<進行方向の制御>
オムニ足の影響で、丘に足を取られて進行方向が変わりやすいため、進行方向の角加速度の補助を入れています。
指令が直進でロボットが左に曲がったら、右に曲がって直進に戻るよう補正する機能です。
これもなかなかうまくいかず。
◆まとめ
アームがリンク制限になってから似たような機体を作ってきましたが、やっと試合で壊れないものができてきました。
気が付いたら、ちゃんと試合ができるまでに15年かかっていますね。
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